ANA(全日本空輸)が、開発に数十年はかかるだろうと見込まれる革新的な技術に挑む。

13日発表されたプロジェクト名は「ANA AVATAR VISION」。米国の大ヒットSF映画「AVATAR(アバター)」のように、分身技術を駆使し、遠く離れた場所でも、あたかも自分がその場にいるかのような体験ができるようにする。

簡単にいうと、遠隔地のロボットにセンサーなどで指示を送り、自らの分身として行動させる。そのロボットが見た風景や聞いた音、手の感触や空気感などがリアルタイムに伝わってくるという技術である。何千キロと離れた場所に「瞬間移動」するのと同じ経験ができるというわけだ。

今はやりのVR(仮想現実)は視覚に特化した技術だが、アバターはまさに五感をに訴える。もちろん、個人的には、自分の足で赴き、苦労しながらコミュニケーションをとり、肉眼で目にした感動には及ばないと思うが、極論を言えば、家から一歩も出ずとも、あたかも世界を大冒険することだってできる。

実は、この技術の可能性は旅にとどまらない。急峻な斜面や放射能で汚染された区域など、人が向かうのが困難な災害現場で救助したり、医療が未発達な地域で名医が遠隔診療したり、十分な教育を受けられない発展途上国で講義したりと、世界中でさまざまな応用が考えられる。

ただし、実用化に向けたハードルは高い。ANAによると、ロボティクスやVR、AR(拡張現実)、センサー、通信、ハプティックス(触覚)など、さまざまな最先端技術の融合が欠かせない。しかし、それぞれの技術が別々に開発され、横のつながりが薄いのが現状で、20~30年という膨大な月日を費やすのは必至となっている。

4年間の賞レースがスタート

そこでANAが始めたのが、技術開発を競う国際的な賞レース。
世界の技術者の耳目を引き付け、20~30年先の未来を5~10年で実用化に持っていきたいと考えた。

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(「ANA AVATER X PRIZE」の公式サイト)

世界初の民間月面無人探査コンテスト「Google Lunar X PRIZE」(日本からはHAKUTOが参加。HAKUTOについては関連記事:「目標は「宇宙旅行」。20年に月面探査の企業にJALも出資」を参照)をはじめ、数々の賞レースを主催するXPRIZE財団のアイデアコンペに応募し、日本企業として初めて選出。賞金総額1000万ドル(約10億7000万円)ANA AVATAR X PRIZE」を今月12日、スタートさせた。

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応募締め切りは10月31日で、国籍は問わない。2020年4月と21年4月に中間コンペを挟みながら、21年10月に優勝作を決めるという4年間にわたるタイムスケジュールだ。

国内でも大分を拠点に開発を加速

ANA独自のクラウドファンディングサービス「Wonder FLY」を活用し、大勢の人を巻き込みながら、アバター関連技術のプロトタイプ作成も目指す。

国内の拠点とするのは、大分県。大分を世界初のアバターテストフィールドにし、JAXA(宇宙航空研究開発機構)を含む産官学と連携。宇宙開発、農業、漁業、医療、教育、観光と、多方面で実証実験を進める。具体的なプロジェクトは以下の通りである。

■宇宙開発
採掘場跡などの土地を活用し、月面など宇宙環境を模した施設を建設。アバターを中心に、3Dプリンター、全自動型ロボットなどの先端技術を用いた遠隔操作を繰り返す。

■農業
宇佐市のアクトいちごファームと連携し、野菜や果物の植え付けから管理、収穫までを遠隔で実施する

■漁業
佐伯市の釣っちゃ王と連携し、遠隔で漁業や海中作業を行う。

■医療
県内の医療機関と連携し、入院患者がアバターを使って学校の授業に参加したり、家族や友人とコミュニケーションをとる技術を検証する。さらに、アバター―を駆使して遠隔で診断するなど、医療現場におけるアバターの可能性を探る。

■教育
大分県と連携し、アバターを用いた新たな体験学習の実証実験に乗り出す。

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(アバター観光のイメージ)

■観光
観光地にアバターを投入し、VR(仮想現実)よりもリアルに地方の魅力を世界へ発信する。例えば、歩きまわって現地の人々と会話し、特産物などを手に取る。そうしたアバター体験を提供することで、外国人観光客の誘致につなげる。

「ANA AVATAR XPRIZE」とともに、こうしたマルチタスクで開発を進めながら、ANAグループでのサービス化も検討していくという。

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(プロジェクトの全体図)

現時点では以下の面々が名を連ねている。

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■大分県…テストフィールド
■広島県…平和推進パートナー
■JAXA…宇宙開発推進パートナー
■NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI…通信パートナー
■広島平和記念資料館…実証実験パートナー(平和推進)
■沖縄美ら海水族館/沖縄美ら島財団…実証実験パートナー(水族館)
■金沢工業大学…実証実験パートナー(教育)
■シマノ…技術サポートパートナー
■日本空港ビルデング/Haneda Robotics Lab…実証実験パートナー(空港)
■TechShop Japan/富士通…制作サポートパートナー
■ADDIX…サービスデザインパートナー

ANAのグループの経営理念は「安心と信頼を基礎に世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」。全世界に革命的な進化をもたらす可能性を秘めるアバターは、航空事業という枠を飛び越えた未来に向けた一手だ。世界初を目指したANAの大いなる挑戦が始まった。

【2018/06/02追記】
ANAは宇宙旅行を目指してエイチ・アイ・エス(HIS)とともに宇宙機開発のスタートアップにも支援している。
【2018/09/07追記】
宇宙空間でのさまざまな事業展開を目指し、JAXAと新たなアバタープロジェクトも始動した。